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2013年6月 第586冊
檜山良昭 「足軽物語」 世界文化社
檜山良昭 「足軽物語」 世界文化社

豊臣秀吉は、足軽・草履取りから身を起こしたと云われますが、
そうすると、彼も足軽時代、人付き合いのいい彼なら
足軽仲間が沢山いたはず。

大企業の社長に伸し上がった人物も、一社員だった新入社員時代が
あったわけで、当然平社員仲間はいたわけです。

一緒に、役員や部長に出世した同僚部下も多いでしょうが、
それぞれの事情もあって、係長どまりや平社員で終わった仲間も
いただろう、というのが本書の下地になっています。

本書は、そんな視点に立って、秀吉の足軽仲間(架空の人物)を
主人公にして、その無名足軽からみた戦国時代を描いています。
意欲作。

秀吉が足軽組頭になり、犬山城攻略から墨俣城築城、
京都上洛も成功し、越前朝倉征伐に向かうあたりまでを描きます。

この先の越前攻めで、信長は大敗を喫するんですが、
その戦いに主人公(あえて出世を望まない足軽)の息子が初陣し、
暗い未来が待っている感じで、話は終わります。

信長がどうした、秀吉がどうした、という話は山ほどあるし、
明智光秀や柴田勝家の視点から視た戦国小説だって、あります。

でも、名も無き足軽からみた、足軽だからこそ感じる実際の
作戦行動や生活背景まで描かれた小説は、希少です。

秀吉と同期ですから、人の良い秀吉は何度も出世のチャンスを
くれるんですが、主人公は村々の焼き払いや殺戮に我慢がならず、
馬の口取り(役員専用車の運転手みたいなもの)以上の出世を拒みます。

著者はそんな主人公に思いを込め、戦国時代だって、
みんながみんな、出世だけを考えて生き抜いたはずは
なかろうと訴えます。

秀吉の部下として活躍できれば、数万石の大名になれたはず。

しかし、豊臣系大名として、関ヶ原以後は汲々とした処世が待っており、
江戸時代には、取り潰しも高確率でありえます。

敵を倒して、領地を分捕って出世しても、数十年後には
何もかも失ってしまう未来だったかもしれない。

諸行無常を感じる一冊でした。







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