2013年7月 第596冊
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神坂次郎 「秘伝洩らすべし」 河出文庫
灰汁(あく)の強過ぎる文体。
陸軍の航空兵から様々な職業、建築現場の監督なども経て作家になっていった
珍しい経歴の人だ。
意外と古本屋には出回っており、ほとんどが歴史小説だ。
ただし織田信長とか坂本竜馬といったメジャーでなく、
故郷の和歌山県モノや無名の人々を採り上げ続けた孤高の精神。
本書は4作の短中篇集。
「乞食はんの芋虫」「南蛮又九郎の飛行」「掌の中の顔」「秘伝」
「乞食」「南蛮」は合わなかったが、
後半の「掌の中の顔」「秘伝」は良かった。
「掌の中の顔」は超能力を持った男の話。
倒木で頭を打ち、男の機能が無くなった代わりに、超能力を得る。
その超能力とは、手で触れるだけでモノの経緯が思い浮かんでくる。
切り株に触れれば、どんな状況で切り倒されたか。
妊婦の腹を撫でれば、情交を交わした男とのドラマが。
この力を使ってどんどん出世してやる!と意気込む男はどうなっちゃうの?
それをガチガチの時代小説の枠組みで、淡々と描いているのがクール。
「秘伝」は、芸術のまやかしに復讐する話。
茶匠の下僕として虐げられるが、近江伊吹山で金鉱を発見する。
それから三十年後、大金持ちに伸し上がった男は、貧乏公家を
カネで仲間に引き摺り込む。
腐っても公家というスポークスマンを手に入れた男は、
莫大なカネと突飛なアイデアで、茶匠の地位と名声を築いていく・・・のだが・・・。
著者の文体、特異な漢字や意訳な読みが、今で言う中二病。
このクセとアクの強過ぎる懲り方に、嫌気がささなかったら
神坂次郎という新しい世界が開けてゆく。