2014年5月 第650冊
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杉本章子 「残映」 文春文庫
徳川幕府、最後の南町奉行、佐久間鐇五郎。
明治維新後、彼が辿った生き様を描きたかったのだろう。
しかし、捕り物帖を絡ませざるを得なかったのが辛いところで、
少々、違和感を感じた。
この佐久間鐇五郎は、南町奉行まで勤めた人物なのだから、
新政府でも望めば、それなりの役職は得られただろう。
しかし幕府瓦解を期に、以前より興味のあった指物師に
転向してしまう。
高級旗本から一介の職人へ。
しかも、自ら望んで市井の人となった。
著者杉本さんだからこそ、ここに食指が動いた。
どの作品も、着眼点が面白い。
歴史研究ならそれでもいいが、
一介の職人になりました、チャンチャンでは
小説にならない。
私は、それでも楽しく読めますが、
朝日新聞に連載する小説としては、そこを土台にしつつ、
本筋は創らなければならなかったのでしょう。
それが、彼を主軸とした捕り物帖です。
権威や名誉を捨てた人が、捕り物をもう一度する。
そんな過程を違和感なく、丁寧に描いてゆきます。
他、小編2編を併せた好中短編集です。