2014年6月 第654冊
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中川右介 「カラヤン帝王の世紀」 宝島新書
クラシック指揮者、帝王カラヤン。
20世紀のレコード&CD勃興とメディア戦略にうまく乗り、
そのルックスと商才、そしてなんと言っても認めざるを得ない音響美。
芸術とビジネスを見事にドッキングし過ぎたことが、
彼の芸術的評価を屈折させているが、百年後、
そこそこの評価を得られていると私は思う。
ちなみに、現在残されている数多くのレコードやCD。
古い演奏やアナログ録音だとどうしても歪みや
レンジの狭さで実演の凄さが霞んでしまう。
数百年後、いや、もしかしたら数十年後、
録音さへされていればどんなに粗悪な録音物でも、
見事にクリアに浄化できる技術が確立されるかもしれない。
もし、そんな夢のような技術が生まれるとしたら、
音響美で優位にあるカラヤンにとっては苦しいポジションと
なるだろう。
私が一番凄いなと思う指揮者は、コンドラシンだ。
ただし、残念ながら録音状況が悪い。
悪いフィルターを通してでも、コンドラシンのショスタコ11番なんかは
圧倒的な弩迫力を感じさせてくれるから、やっぱり凄いと思う。
次はヒコックスやギーレンだが、音質がクリアなのに
コンドラシンの怪物性には及ばない。
ましてや、バクバク感ではカラヤンなど足元にも及ばない。
でもカラヤンだって好きなCDは多い。
プッチーニ「トゥーランドット」やワーグナー「ヴァルキューレ」は
いつも愛聴しているし、オネゲルの交響曲第3番はもっと話題になるべき名盤だ。
さて、本書は面白い試みの一冊。
カラヤンは1908年に誕生したが、その前の1901年から
1年1〜2ページで音楽シーンが語られてゆく。
いきなりカラヤンがウルム市立劇場の楽長に就任する21歳から
描くのでなく、カラヤン誕生の8年前ヴェルディが死んだとか、
カラヤンの両親が出会った頃とか、等から時代設定を描くことで、
どのような時代に生まれ成長し登場したのかが良く解る。
1989年死後も、2008年までその遺功を絡めることで、
その足跡や影響を解り易くしている。