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2006年08月 第196冊
南條範夫  『武士道残酷物語』

南條範夫  『武士道残酷物語』  時代小説文庫

全世界の南條範夫ファン皆様、お待たせ致しました。
久々の南條本の紹介です。

南條範夫は今回のような「残酷モノ」で一ジャンルを確立し、
人気を不動のものにしました。著者は残酷な描写が好き、
というわけでなく、人間の素には鬼の一面がある、
残酷な一面も人間の一面と言いたいのでしょう。

著者は好奇心旺盛な人で、信長や家康といった主流な小説も
手がける一方、面白い人物はいないか、面白いエピソードはないか、
という好奇心を軸に小説を突き詰めていった人です。

この好奇心は大いに私が共感するところで、
私が今も昔も一番遥かかなたに大好きな作家です。

歴史時代小説というと、司馬遼太郎、藤沢周平、池波正太郎、
海音寺潮五郎、山本周五郎・・・と大所がゴマンと出てきますが、
周平や潮五郎には言い辛いながらも、私は南條範夫が一等好きです。

さて、私の南條ラブコールも終わったところで、本書の説明を致します。

本書は全6編からなる短編集。
「時姫の微笑」「梟首(さらしくび)」
「天守閣の久秀」「憎悪の生涯−大久保石見守長安−」
「名君無用」「被虐の系譜−武士道残酷物語−」

「時姫の微笑」は土佐国長岡郡大津城の城主天竺左衛門太夫が愛した
於禰の連れ子、時姫の復讐譚。
自分は連れ子である身をわきまえて、正室の娘である義姉たちに
恭謙に仕えていた。しかし彼女の心には深く渦巻く思いがあった...。

「梟首(さらしくび)」は出羽上ノ山城が舞台。
三百余名の人間が次々に斬首されてゆくシーンは残酷無比で、
かつ、その後の復讐の度合いも凄まじい。

「天守閣の久秀」は題名からもご想像のとおり、松永弾正久秀の
最期を描いたもの。久秀の壊れてゆく心理描写がうまい。

「憎悪の生涯−大久保石見守長安−」
徳川幕府草創期の財政部門の功労者大久保長保ば何ゆえかくも
切り捨てられたのか。これは当時一大スキャンダルであったはず
なのに、かなり暗く表舞台史からは光が届かない。

こういった暗部を掘り下げるのは南條小説の独壇場で、
秘史と残酷性をうまく絡めて小説化されている。

「名君無用」
名君を目指しつつ家臣たちの保守堅守意識に押し潰された
水野忠辰(岡崎藩主)29歳の生涯。
有名な話だが、南條氏の手料理をご堪能頂きたい。

「被虐の系譜−武士道残酷物語−」
これは南條氏お得意の、ルポルタージュ形式の名作。
信州矢崎の小大名堀家に仕えた飯倉家に伝わる日記を軸に、
あまりにも被虐に過ぎる一族の悲伝を追ってゆく。

この表題作はかなり有名で、講談社文庫からも「被虐の系譜」で出ている。






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