2006年09月 第202冊
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南條範夫 『第三の陰武者』 ちくま文庫
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勝手に、南條残酷シリーズ第3弾。
本書は5編からなる短編集。
「第三の陰武者」
「被虐の系譜」@、A
「時姫の微笑」@、A
「未完の藩史」A
「飛騨の鬼姫」
@は時代小説文庫「武士道残酷物語」にも収録。
Aは講談者文庫「被虐の系譜」にも収録。
本書オリジナルは表題作「第三の陰武者」と「飛騨の鬼姫」のみ。
「第三の陰武者」
つくづく飛騨と云うところは陰惨な話が多いのか、これも
戦国初期の飛騨山中が舞台。
ある農家、といっても事が起これば刀も掴む郷士の次男坊がいた。
毎日毎日鍬を握り、鋤を振るい、俺も一旗揚げたいなぁと
漠然と夢を持っていた。
そんなところへお城の偉いさんが通りかかる。
立派な侍はこの農家の若者をまじまじと見、驚き、にやりとする。
なんなんだよ、薄気味悪い...。
と思ってたら、しばらく経って、お城からお迎えがやってくる。
相当な契約金と年俸を提示され、あれよあれよと云う間に、
若者はお城の人となる。
そう、この若者はお城の殿様ウリ二つ、陰武者に採用されたのだ。
しかし、陰武者部屋には若者とそっくりな顔がもう二つあった。
彼は第三の陰武者だった...。
ここから先がまた面白い。例えば、自分が社長だったら。
もしくは、自分が総理大臣だったら。
あれをしてこれもして...ククク...と愉しい想いに浸る。
でも現実は違うんですよね。実力を伴わないものが、
その立場に立つといろいろなことが起こってくる。
実によく出来たお話です。
「飛騨の鬼姫」
平家落人の山間に、一人の流れ者の美女が通り過ぎることから
物語は始まる。この美女が後に「飛騨の鬼姫」と恐れられるほど
飛騨山中を引っ掻き回すのだが、その恐ろしい権謀術策と、
女の手練手管が語られる。
平家は清盛の舎弟修理太夫経盛の妾腹の子を始祖とした
高原郷殿村の城主江間家を舞台とした骨肉の争いを、
この鬼姫一人が焚きつけて行く。女一人でこうも世界が
堕ちて行くのかと、にやにやしてしまう作品。