2007年11月 第244冊
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岡部昌幸 「迷宮の美術史 名画贋作」 青春新書
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かつて黒川博行の「文福茶釜」を読んだおり、贋作の世界を
ミステリとして堪能した事があった。
そもそも犯罪小説やピカレスクロマンが好きな私は、
美術界の犯罪も嫌いなはずが無い。
母の絵画好きの影響で、私も鏑木清方などの日本画を中心に絵が好きなのです。
しかし美術品そのものを尊ぶ心は良いとして、それを金儲けの種に蠢く輩が、
一泡吹かせられる話ってのは、痛快じゃありませんか。
犯罪は面白がってはいけませんが、
この本の犯罪史は全く興味の尽きない話ばかり。
一点百万円以上する絵画など一生自分とは縁が無いし、
優れたものは多くの人と共有されるべきかと思う。
もし、シベリウスが暖炉にくべてしまったと云われる
幻の交響曲第8番の自筆譜を入手したとしても、
それを自分の家に眠らせようとは思わない。
大いに復活演奏してもらい、多くの人に聴いてもらってこそ、
作品も浮かばれると云うものでしょう(シベリウスは激怒するでしょうが)。
しかし美術界では金満家の独占欲こそが、芸術パトロンの源泉でもあり、
難しいところ。
絵画はそれを見るだけで、芸術鑑賞が成り立ってしまい、
音楽のように演奏されて初めて楽譜の真価が立ち表れるのとは違う。
本書は主に、西洋での数々の贋作大事件を列伝風に並べている。
フェルメール、ゴッホ、キリコ、ピカソ、デューラーなどの大事件や、
贋作王ファン・メーヘレン、贋作者トム・キーティング、ルグロ事件、
オットー・ヴァッカー事件。
日本を舞台にした春嶺庵事件、小布施の北斎など、
実に多くの事例が続いてゆく。
絵画が好きな人ほど、面白く読めるが、本書を読めば逆に
絵画も面白く見えてくると思う。