2008年02月 第260冊
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筒井康隆 「家族八景」 新潮文庫
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この本についていた帯(おび)には、「累計440万部」ですって。
子供の頃からこの本の優秀さは耳にしていましたし、こんな内容だったら
もっと早く読んでいてもおかしくなかっただろうに、「家族」という
キーワードに生白さを感じていたのか。
しかしこの年になって「家族」こそ修羅の世界だと分かってきましたし、
普通の関係異常に緊密で離れがたく、愛憎こもごもなのもまた、
「家族」なのです。
ご存知の方は440万人以上いらっしゃるのでしょうが、あらすじを少々。
人の心を読める「読心術」が生まれつきある18歳のお手伝い業「火田七瀬」。
彼女は子供の頃から自分の脅威な才能を恐れ、他人に気付かれれば
身の破滅とばかりに、細心の注意で生きてきた。
高校卒業後も定職を避けお手伝いを渡り歩いているのも、一箇所での
人間関係から超能力を気付かれまいとする護身のため。
本書ではまさに「家族」八景での8短篇。
アイデアマン筒井康隆の本領発揮といった、さまざまな家族に七瀬を
お手伝いとして滑り込ませ、人間心理、家族葛藤を描き出している。
月並みな感想で恥ずかしいんですが、これはとても面白い。
未読のヒトには、是非安心して読んで欲しい。
今では「お手伝いさん」なんて芸能人の家か、介護の必要な家しか
ないだろうから、お手伝い業がまかり通っていた執筆当時と違和感は多少あるが、
それ以外は流行り廃りをあまり書き込んでいないので、野暮ったい
風俗事象も出て来ない。
休日のぬるま湯に浸かりながら、一気に読んでしまった。