2008年12月 第307冊
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乙一 「夏と花火と私の死体」 集英社文庫
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第六回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞作。
当時16歳だとか17歳だとかで書かれ、早熟の天才作品と持て囃された。
1978年生まれの著者も現在30歳、著作時から十数年経ったんですが、
作品そのものは今も色褪せていないのだろうか。
たしかにリアルタイムで17歳が受賞した作品を読んでいれば、また違った
感興に恵まれたかもしれませんが、今頃一人ぼっちで読んでみても、
そんなエピソードは虚しいだけ。
作品そのものの稚拙さは多い隠すべくも無く、
どうしてそれほど騒がれたか首を捻るばかり。
結局、天才少年のデビュー作としては大した力量だが、あらゆる添え物を
外して、純粋に作品だけ向き合うと、いろんなアラが浮き出てしまう。
九歳の女の子が、田舎で近所の兄妹と遊んでいる。
兄はしっかりした憧れの存在であり、妹は兄を尊敬以上の感情を抱く。
「私」はそんな兄妹に羨ましさを感じつつ、一緒に野山を駆け巡る。
そんな田舎の子供たちが描かれる序盤だが、突如「兄」と「私」の
淡い雰囲気に嫉妬した「妹」に偶然の突風も手伝って、木登りから
足を滑らされ岩に落ち、「私」は死んでしまう。
死んだ女の児を兄妹が右往左往しながら、いな、兄はちっとも動揺せず
死体隠しを楽しみつつ、夏の夜を描いてゆく。
要するに子供たちの犯罪小説といったところだが、実際こんな冷徹な子供が
いたら末恐ろしいし、それは頭脳明晰な少年だからありえる、といった設定も
少し漫画チック。だからこそジャンプで受賞したんだとも云えるが、
これが絶賛の支持を得た事の方が恐ろしい。
これくらいで大喜びする読者層が多数存在するなんて、
これからの読書界は暗澹たるものです。
まぁ、デビュー作なんだから、暖かい目で見なきゃいけないんだけど。