2010年02月 第361冊
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野沢尚 「深紅」 講談社文庫
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「深紅」と書いて、「しんく」と読む。
表層的には真っ赤な血溜まりを現しており、深層的には血の業を
描こうとしているのか。
巻末の高橋克彦解説と大方では意見が一致。
本書は全5章のミステリだが、前半2章までが圧倒的に素晴らしい。
問題は中後半の3章。私は「うぅ・・・ん」という感じ。
十分並みの水準以上なのは当然なことだが、前半2章が
素晴らしすぎるのでどうしてもその展開を残念に思ってしまう。
事件発生の第1章と、犯人による上申書を書いた第2章。
第3章からは時も経ち、被害者の遺児が大学生になった時に移るが、
敢えて緊迫感をリセットしてほんわかした状況に巻きなおす。
この展開が成功していたら本書は面白かったろうが、私にとっては
ここらへんに違和感を感じ続け、またヒロインにも共感できなかった。
ヒロインだって十二分に可哀相なのに、加害者の娘の方が惨め過ぎるんだもん。
リアリティを尊重しすぎて、話の方向が変になってゆく。
そうは言っても447ページを数日で読み切ってしまったのだから、
自分にしてはパクパク読んでしまった方。
ラストがどうなるのかと、もうそれが気になって読ませてしまう
わけだけど、結末も意見が分かれる所だろう。
わたしは「うぅ・・・ん」だった。
言うに言われぬ怒りの末に、ある薄幸な男が憎い男の家族四人を
滅多殺ししてしまう。修学旅行に参加していた長女一人が助かるのだが、
父母と二人の幼い弟を殺された心の傷は計り知れぬほど深い。
一方、加害者側にも一人娘が取り残され、二人の少女がやがて
大きくなったとき、第3章が始まる。
この二人の娘を描く中後半3章こそ本書のキモだとすれば、
作品総体としては何かが足りない。
それでも、前半2章は必読だと思う。