2013年3月 第565冊
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シュトラール 「アドルフ・ヒトラーの一族」 草思社
珍しく単行本です、2006年初版、1900円と高い。
ただしそれだけの価値はあり、実に面白い考察に満ちた一冊。
ヒトラー本は山のようにあれど、彼の一族を研究した本はあっただろうか。
東洋では一族郎党という言葉があるように、一人の独裁者が登場したら
その親族から姻族や同郷のものまで、こぞって採り上げられ出世する。
古くは藤原氏や平家、太閤豊臣家に徳川松平、近代でも薩長土肥という言葉が
あるように、鹿児島や山口県の氏族が、どんどん引き立てられた。
ところが、あのヒトラーは自らの一族をほとんど採り上げなかった。
採り上げるどころか一族縁者を毛嫌いし、自分は天涯孤独な天から、
突然落ちてきたような孤立無縁を、表現しようとさへした。
最後の最後には結婚して自殺したが、それまでは結婚さへ遠ざけ、
永遠の国民的アイドルを、イメージしようとした。
そんな彼が、ひた隠しにした一族とは何だったのか?
祖先から父や母、異母兄弟から問題となる姪っ子や遠い親戚まで。
これらを丹念に調べ上げることで、興味深い彼の内面まで見えてくる。
どうして、本書があまり話題とならないのか。
いや実はなっているのかも知れないが、多分それは一部識者の間だけだろう。
最近は、個人のアイデンティティが重視され、家柄だとか一族だとかは
古い考えになってきたが、歴史をみる観点では一族血族の背景は
非常に需要だと思う。