2013年3月 第568冊
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中谷陽二 「精神鑑定の事件史」 中公新書
本書は面白い。
1997年初版。少し時間が経っていますが、採り上げた題材自体も古いので、
そう問題はありません。
それどころか、著者の精神鑑定に対する疑問が小気味よく、
この著者が今どうなっているのかネットで調べてしまいました。
結果は、執筆当時東京都精神医学総合研究所参事研究員と偉いのか
中間なのか分かりませんが、現在は筑波大学院教授のようです。
さてさて、何が良かったかと言えば、精神鑑定で犯罪者を
無罪に持ってゆく流れに疑問符を投げかけているんですね。
犯行時精神障害があれば無罪判決に繋がるわけですが、
精神鑑定を行う中で頭のいい犯罪者はうまく精神障害が
犯行時あったかのように変質してゆくのです。
著者は実に冷静に丹念に、犯罪の背景から内容や
犯人の生い立ちや精神状態、そして精神鑑定の経緯を
紐解きながら鑑定結果や裁判の結果、犯人の行く末までを
追っていきます。
そのプロセスを追っていく中で、読者がどう感じるかは自由です。
著者は出来るだけ冷静に正確に著述してくれており、
それだけに問題点や精神鑑定の本質も浮き彫りになってゆきます。
本書で採り上げた鑑定ケースは以下の通り。
レーガン大統領暗殺未遂事件
ビリー・ミリガン事件
大津事件(ロシア皇太子襲撃事件)
津山事件(津山三十人殺し)
ワーグナー事件
アルチュセール事件