2005年08月 第103冊
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柳内伸作 『世界リンチ残酷史』 河出文庫
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ショッキングな題名であるが、いたって真剣に書かれた奇書。
権力を持つ体制による制裁を「処刑」と呼び、
復讐とも仇討ちとも言い換えれる私的制裁を「リンチ」と呼ぶ。
私は忠臣蔵を始めとした時代小説による敵討ち・仇討ちモノを好んで読むのだが、
これは人間本来が持つ、いたって健全な自然発生心理の帰結だと思う。
近来の無差別博愛精神によって、罪なき幼い命をいたぶり殺しても
死刑にならない現代の構造の方が、よっぽどトチクルッテいる。
筆者はそう叫ぶ。
そして、私も逡巡しつつも、同感せざるを得ない。
考えてみるに、比叡山焼き討ちによって三千人の僧を焼き殺したり、
一揆勢を長島や石山ほか多数で惨殺した男が、革新的天才武将だなどと
尊敬さへされているのである。
三千人ですよ!
あははは、おかしな話よ。
ローマ皇帝しかり、中国の歴代皇帝しかり、英雄と並び称される多くの悪鬼が、
権力と体制によって施行した殺戮は「リンチ」とは言われない。
処刑は法のもとでなされ、リンチは私法の中で陰湿に行われるイメージがある。
しかし、そのどちらも行なった結末は似たり寄ったりであり、
片や厳粛に受け止められ、片や非難の的となる。
いろんな事を考えさせられる一冊である。