2005年11月 第136冊
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南條範夫 『念流合掌くずし』 春陽文庫
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そんな阿呆な、と笑いながら読める娯楽時代小説。
南條範夫は、こういうものも多々書いている。
南條作品の完全読破を目指す小生にとっては、不本意ながら避けては
通れぬジャンル(痛快娯楽時代小説)。
徳川五大将軍綱吉の治世、主人公紅千春(くれない・ちはる)は天才美剣士。
もうこの主人公の登場からして笑っちまうしかないんだが、
おきまりのパターンなので黙々と読む。
宝塚のノリですな。
この天才美剣士が田舎から江戸へ出てきて早々、
改易の憂き目にあった大名の息女(お姫様)を助けることから、
物語は思わぬ方向へと進み出す。
お姫様と身の上話を話すうち、何と二人とも柳沢吉保を仇としていたことが分かる。
こういった流れではたいてい柳沢出羽守か酒井大老が悪人なんだよな。
あとは鳥居耀蔵とか小栗上野介あたりか。
大衆読者に分かり易い設定を目指したんだろうけど、ちと安直。
お笑いなのは後半部分。
なんとなく想像はついてたけど、この美剣士紅千春は柳沢の若い頃の
御落胤だった、というタメ息が漏れちまう展開。
まぁ、当時なら隠し子はいたのかもしれないが、
苦労に苦労を重ねた御落胤が、父を仇と思い込んで討とうとするとは、
少々空想にもほどがある。
もちろん多くの人々の誤解が彼を動かしていたのですが。
文章はやわらかく、南條の余芸として、一日で読める作品。