2006年02月 第161冊
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白石一郎 『横浜異人街事件帖』 文春文庫
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捕り物帖といえば、大江戸八百八町を舞台にした名作が多い。
今私が平行して読んでいる池波正太郎「鬼平犯科帖」も、
平岩弓枝「御宿かわせみ」も、江戸が舞台だ。
もちろんそれ以外だって山のようにあり、後発の作家にとってはどうしても
二番煎じになってしまう。
そんな状況でもあれこれと新機軸を考えて書いている人もいるが、
この白石一郎は長命していればもっともっと面白いシチュエィションの
捕り物帖を書いていたと思わせる。
有名な十時半睡シリーズは福岡と江戸をうまく舞台にしていたし、
今回の「横浜」と「幕末」の組み合わせも面白い。
天下泰平の世でも事件は起こるが、幕末という大動乱期には
事件はほんとこと欠かない。
開港地ヨコハマには異人さんが引っ切り無しにやってくるし、
それに天誅を加えようと目論む浪人、更にそれを防がねばならない奉行所の面々。
町人たちは新しい「貿易」が絡んで小さなイザコザは絶えないし、
イイ男の周りには女も欠かせない。
そんなワケで、実にウマイ具合にストーリーは続いてゆく。
著者が頑張ってくれたら、主人公たちは幕府瓦解・警察発足・明治政府と
いった変転の中をどのように躍動していったか、想像は尽きない。
このネタはまだまだ掘り下げる余地が大いにあり、誰か新人作家が
いずれ取り組むんじゃないだろうか。