2006年07月 第190冊
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遠藤周作 『ピアノ協奏曲二十一番』 文春文庫
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クラシックに絡められそうな題名の本は、大方読むことにしている。
本書もおそらくクラシックに関する小説ではないのだろうな、と
予想しつつこの題名なら読まずばなるまい、と読んでみた。
思ったとおり、モーツァルトの評伝とかではなかった。
遠藤周作を読むのは学生以来じゃないか、
と思うくらい久々に手にとってみたが、
このまま書店から薄れていくには勿体無い作家だと思う。
遠藤本はほとんど読んでいないので、取り敢えず「海と毒薬」
なんぞを買ってみたが、少しづつ読み続けていこうと思う作家に入った。
本書は十篇の短編集。
やはり採り上げるとしたら、表題作「ピアノ協奏曲二十一番」。
この題名でモーツァルトを想起しないクラシック・ファンは
いないでしょう。これが「ピアノ協奏曲二番」とかだったら、
ブラームスかな?ラフマニノフかな?・・・
と際限なく空想が広がっていって、逆に多くの人に目に付くのかもしれないが、
二十一番ともなると、もうモーツァルトしかいない。
そのモーツァルトについて語られた小説ではなく、
この曲は一つの小道具として使われる(思ったとおりだ)。
あるご婦人から筆者へ人生相談の手紙形式で話は進む。
学生時代から付き合った男性と結婚し、今は何不自由なく
幸せに暮らしている。ただ、夫は戦中、戦地で非道な行為をしており、
そのことに起因する夫婦生活が相談の内容。
この夫が戦地で体験した異常なコトはそりゃおぞましいんですが、
それを知り「快感が身をつらぬくのです」と言ってのける奥さんも異常。
異常な夫婦の異常な人生相談を、モーツァルトの調べに乗せて
耽々と書き進む作品世界も異常。
モーツァルトの二十一番を使って、こんな作品を
仕上げた作家は彼だけでしょう。