2007年08月 第227冊
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南條範夫 『戦国若衆』 徳間文庫
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戦国期の稀代のかぶき者、名古屋山三郎を描いた痛快時代劇。
いっそ、題名を「名古屋山三郎」としていた方が、よほど万人に関心を
引いた事でしょうに、傾き者を強調したいゆえの題名なのだろう。
本書もあっという間に読み終えてしまう面白さだったが、私の知らない
人物が詳しく描かれている点でも、頗る知的好奇心を満足させてくれた。
まず。名古屋山三郎。
人物名は知っていたし、チャラチャラした歌舞伎者かと想像していたが、
実は単純にそれではなかった。
まずは幼少より修練に修練を積んだ京流の達人。
蒲生氏郷に百石で仕えたが、氏郷公毒殺後禄を離れ京でかぶき者として
名を上げる。
出雲の阿国と出会い、歌舞伎踊りを二人で練り上げてゆき、
終には夫婦となる。
終盤では、山三郎の実妹が森武蔵守忠政の側室となり、
お世継ぎ仙吉丸(のちの忠広)を産む。
しかし悪家老親子のお家乗っ取りの野望に、仙吉丸に毒牙が伸びる。
危うし、仙吉丸!
甥である仙吉丸と妹を助けるべく、森家がある作州へ飛ぶ山三郎だが!
まぁこんな粗筋なんですが、山三郎が実に格好良く描かれている。
柳に腰の華麗な男児なので「花の慶次」とは少し違うが、
とにかく格好良かったんでしょう。
ラストはそれまでの痛快無比なご都合路線と違って、
悲劇が襲ってしまうのですが、史実をあくまで守った内容が、
かえって心に大きく響く。
やっぱり南條範夫は、面白い。
作家として、昔も今も一番好きです。