2007年12月 第246冊
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帚木蓬生 「閉鎖病棟」 新潮文庫
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ショッキングな少女のプロローグが始まったかと思いきや、全く別の違う
年代・時代・環境のエピソードに話は飛ぶ。
何だか良く分からないながらも、ひとつひとつのエピソードは面白く、
短い小話の積み上げかと思いきや、いよいよ本題に入って行く。
様々な感想でも述べられている通り、この後は「閉鎖病棟」の日常が
長く語られ、あれれと感じる。
しかしここを味わって読めば、後半の展開がぐっと深みを増す。
冒頭に出てきた少女が病院に現れ主人公たちと絡みだすと、
いよいよ重い展開に拍車が掛かり、悪役登場でハラハラしてゆく。
患者たちの様々な過去や、現状のリアルな悩み、
切っても切れない家族とのしがらみや確執。
主要人物たちは各々の悩みを抱きつつ、悲劇は起こり、
完全と立ち向かう男とそれを見守る主人公。
このような粗筋でいったいどんな小説なのかよく判らんでしょうが、
最後まで読み終わると凄く心に残る。
後半ほど読む速度が上がってゆくのは、優れた作品ならではの証。
解説でも述べられているが、この複雑な現代社会を、スイスイと
ウマく立ち泳いでいる我々こそ、普通ではないのかもしれない。
何が普通で、何がおかしいのか、深く考えさせられる。
ほとんどの人がそうであって、そうでない事をすれば
オカシイと分けているだけなのか?
守るべきもの、大切なものを大事にする心、自分を犠牲にしても
愛する気持ちを行動にすること。
そんな理想を、現代社会の汚濁に浸りきった私は、果たして
実際の修羅場では行動に移せるだろうか。
行動したい、とは願っているが、少し自信がない。
ブレのない心を持った人々を描いた、考えさせられた作品。