2007年12月 第247冊
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出久根達郎 「古本奇譚」 中公文庫
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古書界から出た直木賞作家。
古本好きとしては、一目置かざるを得ない人物。
古書店店主。
本書は昭和五十年代に発表された短編・エッセイを中心に
編まれたもののため、古書界も風景もいささか古くて懐かしい。
こういったものがあと十年もすれば三丁目オールウェイズの世界に
なるんだから、私も歳をとったなぁ。
古本屋を中心に、古本や古書、その周りの人々のエッセイが中心だが、
中盤百ページ超となる中篇「狂聖・芦原将軍探索行」が厄介。
芦原将軍を知らない人は、ウィキペディアとかで検索して欲しいんだが、
虚か真か空想小説か私小説かわからない力作が入っている。
初期の力作だけに、読みづらい。
ネタも着眼もいいんだが、どうにも永く感じられて、
本書全体の評価が落ちてしまう。
筒井康隆が同人を主人公にした「将軍が目醒めた時」というのが
あるそうだから、戦前戦中の人には懐かしい人なのかも。
最近は全国展開している大古本チェーンがあるから、
古書界も大きく変わってしまっただろう。
しかし人気作家の文庫本や漫画ならいざ知らず、
珍奇な時代小説や単行本を求める人には古書店は大事なお店。
そんな古書が好きな人には、きっと面白い一冊かと思う。