2009年07月 第331冊
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シュリンク 「朗読者」 新潮文庫
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映画「愛を読むひと」の原作でもあり、全世界で500万人が読んだ
とも云われるドイツのベストセラー。
この作品は大きなテーマが二つある。
前半は、親子ほどに歳の離れた男女の恋。
後半は、その恋人が戦犯者だったと判明し、そのとき人はどう考えるか。
とりわけドイツでの戦後は、ナチスやユダヤ人迫害など様々な人の裁判が
行われていた。戦中はナチス至上主義で、本来の倫理観で考えれば
とんでも無い事までがまかり通っていた。
それを職業的にたづさわっていた者が、任務以上に手を下していたり、
倫理に反する以上の事まで行ってしまっていたかどうかが争点だったようだ。
戦争とナチスという異常世界の中で、罪を犯した者の戦後は終わらない。
後半の主人公たちの不幸を予感させつつ、前半は少年の恋が綴られてゆく。
その恋は若い二人ではなく、少年と母に近い三十路半ばの女性。
前半はそんな歳の差カップルの行き着く先がテーマなのかな、と思いつつ
読み進めるが、突然二人の仲は・・・。
後半は裁判を傍聴する大学ゼミ生に成長した主人公と、裁かれる身の彼女。
若き日々の彼女との恋愛が一生影響し続ける主人公の後半生は哀しい。
そんな男と出会った普通の女性の方こそ、悲劇かもしれない。
題名の「朗読者」がストーリーの核心を暗示している。
これは気の利いた人なら、ピンとくるはず。
文体は穏やかで、静かな音楽を聴きながら、上質な文学を満喫できる。
ただし、大感動、とまでは思わなかった。
私にとって、ナチスやユダヤ問題は遠く離れた歴史、だからかもしれない。
もっともっと歴史を知り、この小説の背景まで理解できる人間に、
なってゆきたい。