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2009年10月 第348冊
南條範夫  「おれは半次郎」   徳間文庫

南條範夫  「おれは半次郎」  徳間文庫

幕末の時代小説。「半次郎」って聞いて、それが誰だか
即座に解かった人は、なかなかの幕末通。
中村半次郎、改名後は桐野利秋。
人斬り半次郎、人斬り半次郎明治新政府最初の陸軍少将、
西郷隆盛の側近中の側近。

薩摩で半農半士、貧しい郷士(石高5石)として燻っていた
若き青春時代から物語はスタート。
もしかしたら、当初は全3巻くらいの構想でスタートしたのでは?
と思われるゆったりとした書き出しです。

薩摩青春時代の面白いエピソードがふんだんに盛り込まれており、
彼の素直で一本気な性格描写がよく伝わってきます。
示現流の使い手で、喧嘩半次郎などと異名を取られますが、
いよいよ西郷と大久保に出会います。

彼らの引き立てもあり、京都藩邸護衛に抜擢。
まったく無名の、百姓に毛の生えた程度の郷士が、権謀渦巻く
幕末の表舞台京都に出てゆく事で、半次郎の人生は大きく回転します。
将軍側から見た幕末、薩長土肥といった首脳陣(西郷大久保、高杉桂、
竜馬や大隈)から見た幕末ロマンは多くありますし、
また読んできましたが、最下層藩士から見た維新というのも政治色が薄い分、
素朴で歴史が透けてみえる面白さがある。

京都時代は暗殺・人斬りとして名声を高めてゆく。
土佐の岡田以蔵、同藩薩摩の田中新兵衛、肥後の河上彦斎、
そして本書主人公中村半次郎とあわせて幕末四大人斬りと呼ばれてゆく。
この中で明治維新まで生き残り、高位高官まで昇り詰めて行ったのが中村半次郎。

西郷の懐刀となってゆき、いつしか暗殺だけでなく、
対外交渉など重要な仕事も与えられてゆく。

戊辰戦争では大総督府軍監を命じられるところまでを、本書では描く。
しかし、ある感、唐突にここで話は打ち切られ、週刊誌や雑誌などで
連載が終わったかのような感がある。
それまでが丁寧にエピソードも豊富に、愛する女性とのサブストーリーも
連綿と描かれていただけに、ひとつの絶頂期で終了してしまったのは惜しい。

逆にこのあと、西南戦争で西郷に付いて下野してゆく下り坂なんかが、
小説的には悲劇的でクライマックスなのに、どうしようもなかったんでしょうか。
ここが残念。

この羅列的感想文を読んだ人は、本書に魅力を感じないでしょうが、
小説としては非常に面白い。
私は南條モノが大好きなんですが、その中でも上位に属する一冊です。
惜しむらくは、半生で終わったこと。






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