2009年10月 第349冊
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紀田順一郎 「名前の日本史」 文春新書
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「名字」の解説本なら数多くあるが、「名前」の変遷に視点を据えた解説本は珍しい。
古くは木簡などに書かれた古代の姓名から始まり、平安期から本格的な各論、
女性の名前、明治以降の名前の激変と、新書と云う180ページ足らずの中に
コンパクトに述べられている。
超本格的に数百ページに亘って解説されてはキツイが、
興味あるセンテンスばかりが180ページならスイスイ読める。
冒頭50ページくらいまでが貴族・武家社会の名前の変遷(お勉強)だが、
それ以降は明治の壬申戸籍(誰もが氏名を公に持つことになった)などが
出てきて、話題がグッと身近になる。
特に昨今の子供の名前に独自性(奇異性)に突っ込んで書かれており、
時代時代で名前の流行り廃れがあるから、現代の凄く読み難いアニメの
主人公みたいな名前も、数十年後には普通になったり陳腐化したりするの
かもしれない。
例えば、昔は病気で子供がすぐ死んだり、人さらいに誘拐(神隠し)されたりと
恐ろしい事があったので、丈夫で健康に育つ可能性が低かった。
そこでお拾いとか棄(すて)といった捨て子は良く育つ迷信を重んじた名前を
つけたり(豊臣秀吉)、糞(くそ)といった天に嫌われるような字義を名前に
埋め込んだり(平安初期の貴族の女性に多い)して天に早々と召されないように
知恵を絞っている。
後半は現代の子供の名付け。
これはみなさんも直ぐお気づきになるでしょう、今の子供の名前って凄いよね。
アニメの主人公みたいな名前がポンポン出てきて、一体なんて読むんだ?
という名前がボロボロ。これが今の流行り、と言えばそのとおりなんですが、
彼らが中年になった頃、どんな風に受け止められているのだろう。
現在の命名は個人の自由だし、自主性個性が尊重される現代では、
その独自性はますます盛んになってゆくのでしょうが、名前は行くとこまで
行ってしまってる状況を感じる。