2010年03月 第367冊
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南條範夫 「豊臣秀吉」 徳間文庫
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秀吉の一代記を描いておらず、本能寺の変以後から小牧の役までの、
秀吉の壮年期のみ描いている。
秀吉の幼少期や、信長の草履取りといった立身出世伝は人口に膾炙されたから
書きたくなかったのは南條氏らしい設定だが、小牧・長久手の戦いで
端折り終わりしたのは、連載打ち切りと想像してしまう。
この後も、紀州、四国、越中と攻略し、九州、小田原の役と続いてゆく。
しかし秀吉の天下争奪が実質確定したのは小牧の役、家康を事実上攻略できた
この時だから、あとは戦後処理みたいなもので書くほどの事は無い、
と南條氏は思ったのであろう。
逆に、「豊臣秀吉」を題材に限られたページ数があって、その範囲内で
最大限秀吉らしさを描ける年代だけをクローズアップして書いてやろうと
切り取ったのかもしれない。
南條範夫氏大ファンならではの、大アマな解釈。
しかしこれは或る意味上手くいっていて、秀吉が天下を手中できるかどうか
ギリギリな時代のみを掘り下げて描くことに成功しており、
「とにかく、生まれてから死ぬまでを」面白かろうが無かろうが
書かなきゃいけないんです、といった縛りは無い。
本当に秀吉が好きな人から見たら、秀次断罪辺りから読むに絶えないもの。
かわいい秀頼が生まれ、自身が老人となってゆく焦りがあったとはいえ、
あれほど英明な秀吉があれほど壊れてゆくとは。
あと、南條版秀吉の最大の特徴は、心理描写。
戦国時代はチカラ攻めが多かったのも事実ですが、秀吉VS家康ともなる
と心理戦が重要になってくる。
いかに相手の裏を欠くか、相手が最も恐れていることは何か。
この辺を丹念に描いており、その描き方が面白い。
むかし住んだ土地が重要な局地戦の戦場として登場したりして、
個人的には手に取るように地形が想像できて楽しめた。
自分の住んだ町で大昔、多くの人が大騒ぎして合戦していたなんて、
なんとも感慨深い話です。