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2010年07月 第388冊
杉本章子「東京新大橋雨中図」文春文庫

杉本章子  「東京新大橋雨中図」  文春文庫

私の住む街だけなのかも知れぬが、杉本章子の文庫本が新刊書店では
不思議と売っていない。

文春文庫はどの書店でも、そこそこの売り場を確保しているのだが、
これほど面白い、まったく驚いてしまった面白い小説である杉本章子なのに、
今は何があったのか、一冊も置いてない。

アマゾンでは普通に売っているので、絶版にはなっていない様子。

近頃の新刊書店は、どこでも経営が厳しいそうだ。
大型書店ではズラリと本が溢れ返らんばかりに新刊や名作が陳列されているが、
次から次へと新刊や話題本が出ている昨今、売れ行きに陰りが出てきた作家は
サっと外されるのだろうか。

ちなみに私は著者の文庫本はほとんど購入済みなので、たとえ書店に売って
無くても困らないのだが、この感想を読んで興味を持った人に申し訳ない。

あなたの住む街の書店には売っているかもしれないが、そんなわけで入手
できるか心配してしまうのです。

心なしかブックオフでも以前ほど見かけなくなった杉本章子。
同じ黄色の背表紙、サ行の司馬遼太郎ばかりが相変わらずの
繁盛振りが憎たらしい。
杉本章子、今頃だけど、面白いんですよ〜!

本書は三百数十ページのちょっとした長編モノ。
タイトルから察するに、橋を中心とした人情モノ(出会いと別れ)を
想像して読み始めたんですが、これが全く違った。

江戸から東京に変わるご一新から物語りは始まり、
その意外な冒頭に久々に驚いた。
しかも主人公は木版浮世絵師小林清親。
って云われても、知りませんよ、そんな絵師。

ちなみに小林清親を調べてみたら、そこそこ情報はあります。
明治初期の絵師が、どのように生き抜いてゆくのか、こういった設定を
読むのは初めてで、これは面白かった。

知らない事ばかりで、でも、明治という変わり行く東京が描かれていて興味は
尽きないし、絵師という江戸の残滓がどのように明治に移行してゆくのか。

第百回直木賞受賞作。まったく、納得しました。






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