クラウドサービスとは?
2010年09月 第409冊
遠藤周作  「海と毒薬」  新潮文庫

遠藤周作  「海と毒薬」  新潮文庫

前半、主人公と思われる「私」の通院の話で始まる。
時代は戦後であり、「私」の病状は比較的軽い。
生体実験の反戦小説と聞いていただけに、何か変だな
と思った頃、真の主人公が現れる。
「私」の主治医、町医者の冴えない医者の過去に、話は遡ってゆく・・・。

中学生の頃だったか、森村誠一「悪魔の飽食」に酷く感銘を受けた。
感銘を受けたというより、トラウマになったと言うほどショックだった。
旧日本軍である関東軍731部隊についての本であり、生体実験に対して
とても恐怖が残った。

時代は戦争末期、軍と大学病院が結託し、米軍捕虜を生体解剖するオペに、
前述の医者が助手として参加するといった内容。
大学病院の医学部長を巡る権力闘争、付属病院の医師としての立ち回り、
軍と大学病院の癒着と様々な告発や暴露が淡々と描かれてゆく。

生体実験に加わった者を直接主人公にせず、それを又聞きした「私」を
置いて語られることによって、ひっそりとした冷たい世界として描かれている。

手術に関わった男女が、なぜ、結局は
関わらざるを得なかったかも列記されてゆく。

看護婦も加わるのであるが、その女性の悲しい半生も広げられ、
作品に奥行きが加わっている。






inserted by FC2 system