2011年10月 第475冊
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杉本章子 「爆弾可楽」 文春文庫
これは面白い。
表題作「爆弾可楽」と「ふらふら遊三」からなる中篇二編。
可楽や遊三でピンと来るでしょ?歌舞伎じゃないよ、落語だよ。
幕末に実在した、破天荒な人生を送った二人の落語家が主人公。
あらすじ=ネタバレなんで、どう紹介しようかと悩ましいが、
落語が好きな人は是非、捜して読んで欲しい。
「爆弾可楽」は貧乏旗本のあぶれもの。
剣術なり学問に秀でなければ、養子においそれとなれない。
そこへ以って彼が好んだのが落語。
義絶してまで落語家となり、才能も花開いて人気落語家として成長するが、
ある大店のお嬢さんが彼を見初めることから人生の歯車が狂ってゆく・・・。
「ふらふら遊三」は幕末から明治期への波乱万丈物語。
上野のお山に立て籠もった彰義隊くずれ。
開化後は商人にもなって人生をやり直すが、上手くいかない。
そんな折に運が開けるのが、官員登用。
もともと話術が優れてたんでしょうね、上司への切実な訴えが
毎度毎度上手く行き、いつしか彼は司法省の判事補にまで出世してゆく。
ところが函館勤務で単身赴任となったことから、又々どんでん返しが待っている・・・。
ここまで変転の激しい落語家もいないゆえ簡単に類似続編は
書けないんでしょうが、こういった落語家がいたこと、
こういった人生が読めただけでも楽しかった。
小説のネタは、探せばまだまだあるんだろうけど、
この着眼点はなかなか出会えない。
杉本章子を見つけた事は、読書し続けてきた成果だ。