2011年10月 第479冊
-
松本清張 或る「小倉日記」伝 新潮文庫
これは面白かった、面白すぎる。
何度も復活フェアが展開され、その度に新しい世代ファンが
生まれている松本清張。
数冊しか読んだことがなく、しかもその多くがミステリ。
清張と言えば推理小説という先入観があって、彼がいかに
多くのジャンルを書きまくっているか勉強不足だった。
清張は大きく別けて、三ジャンルある。
最も有名なのが推理小説(今ではミステリ)だが、
あと二つは「現代小説」と「歴史小説」。
現代小説といっても、明治から昭和中期までが
舞台のルポルタージュ中心なので、平成の今から見れば
少し昔の歴史・史伝小説風と読める。
私は三国志や平家物語(どちらも吉川英治版)から始まって
戦国時代に長く魅了されたが、成人後は江戸・幕末維新期と進み、
山田風太郎の明治開化モノを知った後、明治大正昭和全般が
今最も好きな時代設定。
それゆえに、明治生まれの主人公が大正・戦前戦中を中心に
活躍するストーリーが面白く、本書もその時代背景とほぼ合っている。
本書は12編からなる短編集で、滅茶苦茶面白いレベルが7割を占める。
実際にあった悲惨な人生を採り上げており、表題作なんて、
この歳まで読んでこなかった自分が恨めしい。
菊の花を詰め込んで作るのが「菊枕」だが、
夫に不満がある女流俳人がどんどん壊れてゆく過程は、ホラー以上だ。
考古学に人生をかけた男を描く「断碑」も、鬼気迫る人生を冷徹に描く。
新潮文庫には傑作短編集が全6冊あり、第5冊「張込み」は
もう読んでいるので、残り4冊を大切に読んでいきたい。