2012年05月 第519冊
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奥本大三郎 「東京美術骨董繁盛記」 中公新書
「ファーブル昆虫記」翻訳で有名な奥本氏が有名骨董屋を巡り、
インタヴュー形式で紹介してゆく深訪記。
中央公論社は中央区京橋2丁目、銀座線京橋駅と浅草線宝町駅の間にあり、
この辺は骨董屋が集積しているという。
そこで雑誌の連載として骨董屋めぐりが企画され、
その連載記事をもとに本書が編まれたという。
著者自身は昆虫記を翻訳しただけあって昆虫標本の蒐集家で、
硯(すずり)の蒐集家でもあるという。
骨董屋はどうしても絵画・書・壷などが中心となるが、
蒐集する心への共感が溢れるあまり、自己領域の昆虫標本に
置き換えて語るのが面白い。
18店の骨董屋が紹介されているが、
後半は古民具や古書店(有名人の色紙や直筆原稿)まで幅を広げている。
骨董屋の初代じいさんの一代記(自慢話)を聞き書きしているのが多いが、
インタビューがマンネンリ化してくるので後半は何故そういった品目に
着目したのか、が聞きどころ。
戦後のドサクサ混乱期に、没落名家から安く買い叩いて進駐軍や成金に
高く売った商法もあるが、一般に価値が置かれていない時期に蒐集しておき、
時代が追いついてきたので当たったという予見成功が面白い。
また逆も然り、むかしは人気画家だったが今は寂れた人気もあり、
芸術の毀誉褒貶は凄まじい。