2012年05月 第520冊
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檜山良昭 「鋼鉄の鮫」作戦 光文社文庫
1984年(昭和59年)文庫初版。
巻末の広告には「光文社文庫創刊第2弾!」と銘打ってあり、
その第2弾の一冊として、書き下ろしされたのが本書。
光文社文庫が「創刊」だなんて、時代を感じさせるねぇ。
三陸沖の大陸棚に、ソ連の原潜が事故を起こし、
沈没着床してしまった。
沈没といっても水没したわけでなく、航行不能となり
海流に押し流され、海溝に滑り落ち艦が破壊されないように、
ギリギリの深度の海陸棚に、やむなく着床したのだ。
当時世界は米ソ冷戦下にあり、軍事最先端技術の粋が
集められた原子力潜水艦が、敵側に渡っては大変。
その艦には、乗員が救助を待っており、
早く引き上げないと、酸素が欠乏する。
しかし日本の領海内であり、ソ連は艦を破壊してでも
軍事機密を守りたいところだし、潜水艦内部でも軍事機密を
最優先すべく自爆すべしと暴走する一派と、
乗員の命を守ろうとする艦長一派に分かれて、艦内は大紛争。
一方、自衛隊は民間サルベージ会社に委託して、
超難易度の潜水艦引き上げに挑む。
その民間技術者たちが本書の主人公だ。
サルベージ会社は、自衛隊からの超難易度の依頼を、見事
成し遂げれば、今後の受注が見込めると、経営層は猛進するが、
現場の引き上げ技術者は、その難易度を検証すればするほど暗澹となる。
そんなさまざまな思惑と時間が、緊張感を持って一気に読ませる。
今となっては地味な題材だが、軍事サンスペンスとして
なかなか良く出来ている。