2012年01月 第493冊
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林光 「日本オペラの夢」 岩波新書
芥川也寸志なり、小澤征爾なり、
指揮者や音楽家の文章は、意外と面白い。
彼らは学者でなく藝術家、もっと端的に言えば芸人であり、
どうすれば人が喜ぶか、人を喜ばせられるか
体の芯で知っている。
いな、人を喜ばせたいという潜在意識があるのだろう。
文章で喰っている訳ではないのに、かなり面白いのだ。
まだあまり読んでいないので、断言できないが、
團伊玖磨や、岩城宏之の音楽エッセイが、
相当数、文庫化されているのが、その証左だ。
オペラ作曲家、林光も、少し気になっていたので、
本書を読んでみた。
彼の人生を辿ってゆくことで、戦後作曲界、
日本語オペラの一部を描いていこうという内容。
文章は平易で飾りなく、彼の若き仕事の流れも
正直に書かれている。
慶應高校から、東京藝大に進んでおり、
エリートコースを用意された人生なのに、
敢えて、ゲンダイ音楽の道に曲がってゆく。
金に困って、どうたらこうたらといった描写が、
全く無いのは、彼の美意識ゆえか、
家産が裕福であったためか。
著者は1931年生まれ、本書は学生時代から始まり、
本書が書かれた1990年近くまでが、書かれている。
五十年以上を書こうと言うのだから、
全てを満遍なく書くのは無理で、
これはという要所要所が、中心となっている。
また、彼の日本語オペラへの熱い考えや、理想も
交えており、オペラ論としても興味深く読める。